「予定より3ヶ月遅れ、追加費用は500万円」——この言葉を聞いて、他人事だと思いますか?クリニック開院のスケジュールと予算は、計画通りに進むことのほうが稀です。多くの先生方が経験する「遅れ」と「追加費用」の原因は、見えない敵——私たちはこれを“時間泥棒“と呼んでいます——との戦いに敗れた結果なのです。
この記事では、大阪でクリニック開院を目指す先生方が、“時間泥棒“の正体を理解し、予定通り、予算内で開院を実現するための戦略を明らかにしていきます。
1.「時間泥棒」の顔:スケジュールを狂わせる【6つの犯人】
クリニック開院のスケジュールを狂わせる“時間泥棒“には、いくつかの典型的なパターンがあります。
- 犯人①:物件選定の「迷路」
クリニック開院で最も時間がかかるのは、物件選定です。「理想の物件が見つかるまで」という姿勢で探し続けると、1年、2年と時間が過ぎていきます。
大阪の医療激戦区では、クリニックに適した物件(視認性、アクセス、駐車場、広さ、賃料)は競争率が高く、決断の遅れが機会損失につながります。「80点の物件で決断する」という割り切りがなければ、永遠に探し続けることになります。
- 犯人②:設計変更の「スパイラル」
「やっぱりこうしたい」「この部屋をもう少し広く」「ここにも手洗いを追加して」etc.設計段階での度重なる変更は、時間と費用の両方を奪います。
設計変更は、それ自体に時間がかかるだけでなく、再見積もり、工程の組み直し、資材発注のやり直しなど、連鎖的な遅延を生みます。「変更するなら早い段階で」「決定したら変えない」という姿勢が重要です。
- 犯人③:行政手続きの「渋滞」
保健所への開設届、建築確認申請、消防検査等々これらの行政手続きには、一定の審査期間が必要です。書類の不備や修正依頼があれば、さらに時間がかかります。
大阪市の場合、年度末や新年度初めは手続きが集中し、通常より審査に時間がかかることがあります。行政の「渋滞」を見越したスケジューリングが必要です。
- 犯人④:医療機器納入の「ブラックホール」
大型医療機器の納期は、発注から数ヶ月かかることがあります。特に、海外メーカーの機器や、受注生産の特殊機器は、納期が読みにくく、工事完了後に機器が届かないという事態も起こり得ます。
「内装工事が終わってから機器を発注すればいい」という考えは危険です。工事と並行して機器の選定・発注を進め、搬入日を工程に組み込む必要があります。
- 犯人⑤:スタッフ採用の「空白」
開院直前にスタッフを募集し、研修を行うというスケジュールでは、人材が集まらない、または研修が不十分なまま開院を迎えるリスクがあります。
大阪の医療従事者の採用市場は競争が激しく、看護師や医療事務の確保には時間がかかります。内装工事と並行して採用活動を進め、開院の1〜2ヶ月前には研修を開始できるスケジュールが理想です。
- 犯人⑥:資金調達の「壁」
銀行融資の審査に時間がかかる、融資条件の交渉が難航する——資金調達の遅れは、全ての工程に影響します。
事業計画書の精度が低いと、銀行からの追加資料要求や条件変更の交渉が長引きます。開院を決意した早い段階で、金融機関との相談を開始することが重要です。
2.「予算崩壊」のメカニズム:費用が膨らむ【5つの構造】
スケジュールの遅れは、そのまま費用の増加につながります。加えて、予算を崩壊させる独自の構造的要因があります。
- 構造①:見積もりの「甘さ」
概算見積もりと最終見積もりの間に、大きな乖離が生じることがあります。「概算で1,500万円と言われたから予算を組んだのに、詳細見積もりは2,000万円だった」——これは珍しいことではありません。
概算見積もりは、あくまで参考値です。詳細な設計図面に基づく正式見積もりを取得するまで、予算を確定させないことが重要です。
- 構造②:追加工事の「連鎖」
工事中に発覚する既存建物の問題、設計変更に伴う追加工事、機器仕様の変更による追加工事——これらの追加工事が連鎖的に発生すると、予算は雪だるま式に膨らみます。
追加工事の発生を完全に防ぐことはできませんが、事前調査の徹底と、追加工事の手続き(書面での合意)のルール化で、リスクを最小化できます。
- 構造③:工期延長の「ペナルティ」
工期が延びれば、その間のテナント賃料、仮事務所の費用、人件費などの固定費が追加で発生します。また、開院延期によって、想定していた収入が得られない期間が長くなり、資金繰りに影響します。
- 構造④:「妥協なき理想」の代償
「せっかく開院するのだから、最高のものを」という想いは理解できます。しかし、際限なく仕様を上げていくと、予算は際限なく膨らみます。
「投資」と「経費」を峻別し、集患に直結する部分には投資し、それ以外は抑える。このメリハリが、予算内での開院を実現する鍵です。
- 構造⑤:「後からでいい」の先送り
「それは後からでいい」と先送りにした項目が、実は開院に必須だったと気づいた時には、追加費用と工期延長が発生しています。
看板、駐車場の整備、ホームページの制作、広告宣伝費etc.これらの「後からでいい」と思われがちな項目も、開院スケジュールに組み込んで計画することが重要です。
3.「時間泥棒」を捕まえる:理想的なスケジュールの全体像
クリニック開院までの理想的なスケジュールの全体像を示します。これを基準に、先生ご自身のスケジュールを逆算してください。
- 開院18〜12ヶ月前:構想・計画フェーズ
・経営理念・診療方針の策定
・事業計画書の作成
・資金調達(金融機関への相談・審査)
・物件探索の開始
・開業コンサルタントや設計事務所の選定
- 開院12〜6ヶ月前:準備フェーズ
・物件の決定・契約
・設計者との打ち合わせ、設計図面の確定
・内装工事業者の選定、見積もり取得、契約
・医療機器の選定、発注
・行政機関への事前相談(保健所、消防署など)
- 開院6〜3ヶ月前:工事フェーズ
・内装工事の着工
・各種行政手続き(開設届、保険医療機関指定申請など)
・スタッフ採用活動の開始
・広告宣伝計画の策定
- 開院3〜1ヶ月前:仕上げフェーズ
・内装工事の完了、各種検査
・医療機器の搬入・設置
・スタッフ研修
・開院告知、広告展開
・プレオープン(内覧会)
- 開院
・保健所への開設届提出(開院から10日以内)
・診療開始
4.「予算の砦」を守る:資金計画の鉄則
予算崩壊を防ぐための、資金計画の鉄則を紹介します。
- 鉄則①:「三本柱」で予算を構成する
クリニック開院の資金計画は、以下の三本柱で構成します。
・初期投資:内装工事費、医療機器・什器、保証金・敷金、広告宣伝費など
・運転資金:開院後6ヶ月〜1年分の固定費(賃料、人件費、リース料など)
・予備費:初期投資の10〜15%程度
このうち、運転資金を見落とす先生が多いのですが、開院直後は収入が安定しないため、運転資金の確保は生命線です。
- 鉄則②:内装費の「上限」を先に決める
「内装にいくらかけるか」を最初に決めず、設計を進めながら費用を積み上げていくと、際限なく膨らみます。総予算の中で内装費の上限を先に決め、その枠内で設計を進める——この順序が重要です。
- 鉄則③:「見積もり比較」の技術
複数の業者から見積もりを取得し、比較することは重要ですが、単純な金額比較は危険です。見積もりの範囲(含む項目、含まない項目)、仕様のグレード、追加工事の条件など、比較のための基準を揃えて評価する必要があります。
- 鉄則④:資金調達は「早め」に動く
銀行融資の審査には時間がかかります。事業計画書を固め、物件が決まった段階で、速やかに融資の本申し込みを行いましょう。融資実行のタイミングが、物件契約や工事着工のタイミングに合うよう、逆算してスケジュールを組むことが重要です。
5.「時間泥棒」と「予算崩壊」に勝つために
クリニック開院を計画通り、予算内で実現するためには、“時間泥棒“と“予算崩壊のメカニズム“を理解し、先手を打つことが不可欠です。早めの意思決定、詳細な計画、行政手続きの先読み、そして信頼できるパートナーの存在、これらが、先生の開院を成功に導く武器となります。
私たち『CDC』(CLINIC DESIGN CREATION)は、大阪を中心に、数多くのクリニック開院のスケジュール管理と予算管理をサポートしてきました。内装工事だけでなく、関係機関との調整、医療機器メーカーとの連携、開院までのプロジェクトマネジメントを一貫して担うことで、先生方を“時間泥棒“から守ります。
「スケジュールに不安がある」「予算内で収まるか心配」・・・そんな先生方は、ぜひ一度、私たちにご相談ください。
投稿者:『CDC』(CLINIC DESIGN CREATION)
設計・建築事業部/ハウバート・ダン(Dan Howbert)
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本コラムは、一般的なクリニック開院に関する統計的なデータや公的なものを引用してる箇所があり、得られた知見と、『CDC』(CLINIC DESIGN CREATION)のコンサルティング実績に基づいています。・日本政策金融公庫「新規開業実態調査」
・厚生労働省「医療施設動態調査」
・専門誌(『日経ヘルスケア』『CLINIC BAMBOO』など)に掲載されるクリニック開業事例
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